想ー像ーラジオー。
海沿いの小さな町でなぜか高い杉の木のてっぺんに仰向けになって引っかかってるDJアークがパーソナリティをつとめる「想像ラジオ」
アークの軽妙なトークにリスナーも徐々に増えメールも続々と届くのだが・・・
いとうせいこうの16年ぶりの新作「想像ラジオ」を読みました。
舞台は疑うことなく東日本大震災で津波に飲み込まれた町。想像すれば耳を澄ませば死者の声が聞こえてくる、生者と死者の新たな関係を描いた物語。
アークはなぜ木の上でラジオ番組を流しているのか、どのようにメールを受け取ってるのか、なぜ中継レポートが入ってくるのか、そして肝心の聞きたい声が聞こえない・・・
やがてその答えを知る。想像ラジオが聞こえる人は死者であり自分も死者であると。
印象的な場面は死者の会社役員のキミヅカさんが部下を探しに闇の底へ降りていく、時を同じくしてある女性が深い闇、冷たい水の底へとゆっくり落ちていく、キミヅカさんはゆらゆら揺れる冷たい手に触れる。「その人がこれ以上沈んでいってしまわないよう、じっと手を握っています。こうしているとまるで私こそが沈みつつあり、つないだ手で救いを与えてもらっているような気にもなります。」と。
女性は「キミヅカさんを届けてくれてありがとう。彼と手をつないでるのは黒い水の奥にたった一人でいた私です。お互いの指先が冷たくて笑い出してしまいそう。」と。
想像することで、耳を澄ますことで死者の声が聞こえるかはさておき、死者、犠牲になった人たちと共にこの国を作り直すことの大切さ、さらに生きている者同士のコミュニケーションにも想像する力は必要だと思います。
DJアークの最後の放送の最後の曲、ボブ・マーリーの「リデンプション・ソング」が想像することで鮮明に聞こえてきます。
おすすめです。読んでみて下さい。